人がもっと生きやすくなるヒューマンインタフェース
私が注力している「ヒューマンインタフェース」とは、人間と機械が情報をやり取りする手段や、そのための装置やソフトウェアなどのことです。苦手なことを機械がカバーすることで、その人が生きやすい環境を作ることが目的です。研究室の学生たちと一緒に開発してきたインタフェースが今後のポストコロナ社会に役立つ可能性について、何度もメディアに取り上げられました。
その1つが「デジタルカメン」です。コロナ禍での必需品となったフェイスシールドのように、すっぼりと顔を覆った液晶ディスプレイにキャラクターを投影して、 その表情を変化させることができます。仮面の裏側にある40個の光センサーが顔の筋肉の微妙な動きを認識し、それをもとにAlが推定した表情をキャラクターで再現しています。今は装着した人の表情をリアルタイムで表示していますが、あまり笑わない人をもっと笑顔にしたり、アニメのようなオーバーな表情にしたり、 感清を豊かに表現するツールとしても活用できるのではないかと考えています。また、聞こえづらいマスク時の会話をスムーズにするアプリを開発している学生もいます。声を発すると、耳のそばに装着したイヤホンから骨伝導で雑音が聞こえてきて、自然と声が大きくなるというシステムです。人は自分に聞こえる音塁によって声の大きさを調節するため、無意識のうちに大きな声が出て、ストレスなく円滑なコミュニケーションが可能になるのです。
デジタルカメンの開発のきっかけも、自分の表情がよく誤解されるという学生の悩みでした。このように、日常にある「困った」を楽しく解決するというのが私たちの研究の大きなテーマです。まだまだ改良の余地はありますが、10年後には誰もがデジタルカメンを羞けて、服を着替えるように顔も変える時代になっているかもしれません。自分の空想や妄想を現実化してみたいという人を、平田♪竹川研究室は大歓迎します。現状では実現が難しいようなアイデアにどうやってアプローチするか、ワクワクしながら新しいヒューマンインタフェースを作りませんか。
「できた!」の喜びを増やしたい人がもっと生きやすくなるヒューマンインタフェース
大人の習い事を応援するシステムで人生の質を豊かに、そして健やかに
皆さんは小さい頃に自転車の補助輪を使ったことがありますか。私の研究はITを使って「新しい補助輪を作ること」。その補助輪で大人の初心者の学習を支援する研究を行っています。学習の内容は、ピアノなどの楽器や書道、ダンス、スポ一ツといった体を動かす技能全般です。20世紀後半のIT革命以降、私たちは生活の便利さが増すにつれ、運動する機会を徐々に手放すことになりました。21世紀の超高齢社会に向け、これからの時代は「生存のための運動」から「人生の質を豊かにするための運動」へ。そんな運動の質の変化を意識しながら、従来の方法だけでは挫折する人があとを絶たない「大人の習い事」支援を行っています。この研究の面白いところは、自分が好きな、もしくは克服したいと思っている技能がそのまま研究テーマとなるところです。3歳からピアノを始めた私の場合、鍵盤のプロジェクションマッピングで演奏を補助するピアノを作りましたが、研究室の学生たちを見ていると、タブレット端末を使った書道の書写支援(図1)や、 バレーボールのスパイクを打つ瞬間(図2)あるいはスノーボ一ドのタ一ン時の重心のかけ方(図3)、ボウリングの投球フォーム(図4)、自分では客観的に確認できない動作をセンサ一を用いて記録に残して振り返るなど、研究範囲は実に多彩です。
本来の補助輪は「外す・外さない」の二択ですが、ITを使えば「補助輪を段階的に外す」ことも可能になりました。
大人の習い事は教わる側が自我のある大人であるため、教える側との相性や単純作業にすぐに飽きてしまうこと、本人が納得しなければ練習法を変えられないことなど、基礎段階でいくつもの落とし穴があります。そこにITを導入して、基礎の底上げに役立ちたい。ITが得意なところはITが教え、人が得意なところは人が教える。両者の協調による相乗効果を期待しています。
この研究で一番嬉しい瞬間は、学生たちが支援システムを使った結果「できた!」と喜ぶ現場に立ち会えること。その成長ぶりを見て、「この研究をやっていてよかった」という大きな手応えを感じます。今後も世の中の「食わず嫌い」や「自分にはムリ」という諦めに働きかけて、一つでも多くの笑顔を増やしていきたいです。
▲図①
▲図②
▲図③
▲図④